この本のパンチライン
なぜ僕らは絶滅せずに今も生き延びているのか? 進化のプロセス、すなわち環境の変化とそれに応じた適応進化のメカニズムから外れた僕らの心は、互いに助け合い、互いにケアするようになった。 言い換えれば、ケア抜きには生きてゆけなくなった種なのです。
著者紹介
主な学び
本書で取り上げている問い
- 人間同士の善意は、なぜ空転(ありがた迷惑の発生)するのか?これはそもそも防ぐことができるのか?そして、防ぐことができるとすればそれはどのようにしてか?
- そもそも利他、ケアというのは何なのか?その歴史的起源はなにか?これらを哲学することに何の意味があるのか?
現代に生きる僕らはなぜこんなに生きづらいのか?
- 人間関係の悩み、自身の健康の悩み、将来に対する漠然とした不安、過去の恋愛や性に関する傷などなど。。。
- 結論としては、ホモ・サピエンスの身体・脳・精神は、数万年前の環境を生き延びるために獲得された状態のままだからである
- だから、現代のさまざまなテクノロジーと多様性に囲まれた都市環境に、(まだ)適応できていない
↓ じゃあこれらを人類の歴史的背景から深ぼっていく
利他とケアの定義
- 利他
- 自分の大切にしているものよりも、その他者の大切にしているものの方を優先すること
- ケア
- その他者の大切にしているものを共に大切にする営為全体のこと
ヒトの身体や精神:進化のプロセスは数万年単位である
- 身体・精神
- これを、EEA(進化的適応環境)の観点から「10万年前のサバンナ」と「現代」で比較してみる
- 例1)カロリー欲求の話
- 現代
- 過度なカロリー欲求が発生することにより、暴飲暴食が身体を蝕んでしまう
- 10万年前のサバンナ
- 狩猟採集時代のホモ・サピエンスとして、カロリーへの欲求は生き延びるために必須である
- 獲物を獲ることが非常に難しい時代では、この欲求が強くないとすぐに死んでしまうので、とにかく高カロリーの食べ物を身体が欲している状態
- 糖質、塩分、脂質に対する強い嗜好が適応的である
- なので、現代でいうところのファストフードや、高カロリーなおかしなど食べるとすぐに太ってしまうものを本能的に求めてしまうように進化している
- 例2) 髪型の話
- 現代
- なぜ、ヒトはここまで髪型にこだわるのか?
- 毎日の髪型セット、定期的な美容室へ出向く、催しものでは特段髪型に気を遣うなどなど
- 不合理なまでに髪型にこだわるのはなぜか
- 髪型が決まらないと落ち込み、逆にうまく決まると気分が良くなる
- ポルトガル語の「カフネ」は「愛しい人の髪に指を通す仕草」のこと
- なぜ頭部にある単なるタンパク質の束が、このような単語が生まれるほどにそこまで重要な役回りを持っているのか?
- 10万年前のサバンナ
- 潜在的な配偶者、恋愛のパートナーが若く、かつ健康であるか否かを髪質で判断していた
- 男女問わず、健康的な人の髪質はツヤツヤしている。髪は生存に不可欠なものではないので、身体は真っ先に髪から必要な栄養素を摂る
- つまり、健康かどうかの判断材料として、髪の状態を見ることが一番わかりやすい
- また、髪は1年で15cmくらい伸びるので、背中まで垂れた髪には過去4年間の健康状態が表れる
↓ これらの例から何を導きたいか?
進化のプロセスは数万年単位である
- 1,000世代
- これは、身体のある解剖学的構造や形質、つまり身体的あるいは、心理的・認知的特徴を、人為的ではない形の通常の自然選択によって、その種全体が獲得するまでに、何世代くらい必要なのか?の時間
- つまり人はどれくらいのスパンで身体的に進化するのか?には、1,000世代ほどかかる
- 基本的に1世代 = 30年という定義が一般的なので、30,000年ほど
- 例えば、
- キリンが、突然変で首がな長い個体が生まれ、種全体に適応されるのに、1,000世代
- ビーバーがダムをつくれるようになるまで、1,000世代
- シロクマの例
- 突然変異で毛皮の白い仔グマが生まれた
- → 他のクマよりアザラシに近づくのが得意だった
- → 食料を得やすいと生き延びる可能性が高くなる
- → 子孫も毛皮が白くなり、生存率も上がった
- → 茶色いクマは生存競争に負け、1万年〜10万年でみんな白色になった
- というわけで、1つの突然変異から種に大きな変化が起こるには、長い年月が必要
↓ つまり
- ホモ・サピエンス(人間)の身体・脳・精神は、数万年前の環境を生き延びるために獲得された状態である
- だから、現代のさまざまなテクノロジーと多様性に囲まれた都市環境に(まだ)適応できていない
- だから、現代で人は生きづらく、病んでしまう
生きづらさの正体
- 「文明(広義でいう文化)」 = 「テクノロジー」+ 「制度(政治体制や経済システムを包含する)」
- 「文化」とは、「遺伝情報による伝達以外の方法で、集団中のある個体から他の個体へと伝達される情報のすべて」
- 本来、生物は適応進化による遺伝情報の伝達しかないので、これはヒト以外の動物にはできない
- サピエンスは、環境自体を変更してしまう種であり、文化が僕らの心を置いてけぼりにして身体のスピードを凌駕してしまうことがある
- これはサピエンスの動物としてのバグであり、これが生きづらさの正体になっている
なぜヒトは生き延びているのか?
- 上述の通りだとすると、生物の通例に合わせると環境に適応できず絶滅するはずである
- だが、ヒトは生き延びている。なぜか?
- ホモ・サピエンスは、互いに助け合い、互いにケアをするようになった
- 「ケア抜きには、生きてゆけなくなった種」なのである
- ゆえに、社会的な動物になり、なんとか現代も生き延びている
- ということは、利他やケアについて考えてみることが非常に重要なのではないか?